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セミナー

東アジア古典学の方法 第90回
次世代ロンド(39)

日時
2024年1月21日(日)14:00~17:00
会場
京都大学 *参加方法につてはお問い合わせください

基本情報

概要

⾶⽥英伸(東京⼤学 博⼠課程)
政治⼩説の展開とそのゆくえ――尾崎⾏雄『新⽇本』を中⼼に
コメンテーター:楊維公(京都大学 助教)


薄 鋒(東京⼤学 修士課程)
夏目漱石漢詩「失題(吾心若有苦)」の草稿に見る長尾雨山の添削考
コメンテーター:黄弋粟(京都大学 修士課程)

主催

科研「国際協働による東アジア古典学の次世代展開──文字世界のフロンティアを視点として」

当日レポート

 今回は、飛田英伸さん(東京大学博士課程)と薄鋒さん(東京大学修士課程)が発表を行いました。コメンテーターは、楊維公さん(京都大学助教)と黄弋粟さん(京都大学修士課程)が務めました。
 まず、飛田さんが、日本近代の代表的な政治家尾崎行雄が著した政治小説『新日本』(明治19〜20年)を中心に検討することで、政治小説の形成と展開を近代的政治家の誕生の過程について発表しました。飛田さんは、戸田欽堂『情海波瀾』(明治13年)、矢野龍渓『経国美談』(明治16〜17年)、藤田茂吉『文明東漸史』(明治17年)などの作品を取り上げ、政治小説が寓話、歴史、夢物語など交わりながら展開したことを示しつつ、『新日本』がその展開の上に形成されたものとして位置づけられること、またそれが「少年」に対して弁論を行う政治家的主体の位置に作者を置くテクストとして捉えられることを論じました。
 飛田さんの発表に対し、コメンテーターの楊さんは、発表で政治小説に取り上げた『佳人之奇遇』以外は活版印刷の洋装本について、政治小説の発行部数と装丁特徴などを問いました。また、文学と政治の関係や政治小説において才子佳人の意味などについて議論が展開されました。
 次に、薄さんが、夏目漱石の第66首漢詩「失題(吾心若有苦)」の草稿に見える漱石本来の漢詩創作、および長尾雨山の添削とその詩評の特徴と目的について発表しました。具体的には、薄さんは、漱石原作の文学表現は感性的、消極的、無気力、絶望的、添削版の理性的、積極的、意欲的、希望的な文学表現と大きく異なっていること、添削前の文学表現こそが漱石原初の漢詩創作であり、漱石本来が表そうとした精神世界の実態に最も近いと指摘しました。さらに、雨山の詩評を見直し、それは原作に反映されている漱石本来の消極的と不安な精神世界を婉曲的に励むことを目的とすること、雨山が重視する「古の詩」の「性霊を陶鑄する」と深く関わっていると指摘しました。
 薄さんの発表に対し、黄さんは薄さんの漱石の詩作に使われる「喀喀」など言葉に対する解釈について、新しい用例を取り上げつつ漱石本来が表現しよう感情を再検討しました。また、本発表の研究方法に対し、黄さんは草稿・原稿研究の役割と限界を提示したが、それを読み解くことによって漱石の原作を深く理解することができるではないかと指摘しました。
 政治小説と漢詩というように、発表で扱う文学のジャンルは異なっていましたが、お二人の発表は、いずれも文学作品を読み解きながら作者たちの意図について考えさせられるもので、大変興味深く拝聴しました。